患者を不安にさせない医療
「がん難民」を作らない
専門性の高いチームでの緩和ケア
手術、抗がん剤治療と並び、がん医療に欠かすことのできない緩和ケア。
しかし、手術や抗がん剤治療の進歩に比べて、がん治療の緩和ケアは、専門性が高い医療であるために、提供できる施設が少ないという問題を抱えています。
佐野病院ではがん治療と並行して緩和ケアを行うことを基本とし、がんと共生するという新たな治療を取り入れています
PROFILE
岩館 峰雄(Mineo Iwatate)
緩和ケアサポート室 室長/地域医療連携室 副室長
【診療科目】 消化器センター外来・内科
【専門分野】 消化器がん診療、大腸内視鏡診断と治療
がん難民という現実
がん治療は一般的に、手術、抗がん剤治療、そして緩和ケアへと進んでいきます。この中で、がんの手術や抗がん剤治療を行う大きな病院は、入院日数が長くなる緩和ケアに対応できないことがほとんどです。また、緩和ケアを専門的に行う「ホスピス」は、施設数やベッド数がまだまだ不足しているのが現状です。そのため、抗がん剤治療を終えた患者様がスムーズに緩和ケアへ移行することが難しく、いわゆる「がん難民」となってしまうケースが多く見られます。
当院では、このような「がん難民」を作らないためにも、2009年からがん治療と並行して緩和ケアを行うことを理念とし、実践してきました。
あらゆるがんに対応した緩和ケア
がん治療における緩和ケアの難しさは、その専門性にあります。当院は、消化器がん専門病院としてがんの治療経験が豊富なこと、また、緩和ケアにおいては消化器系のがんのみならず、肺がん、子宮がん、脳腫瘍、悪性リンパ腫など、あらゆるがんのケアを経験していることから、がん特有の薬の使い方にも精通しています。
さらに、当院の緩和ケアは、医師や看護師だけが行うのではなく、薬剤師、理学療法士、作業療法士、管理栄養士などの多職種からなる「緩和ケアサポートチーム」で、それぞれの専門性を生かしたケアを行っています。
在宅ケアとの緊密な連携
当院では在宅への往診医療を行っておりませんが、長年地域医療を実践してきた中で在宅ケアを行っている周辺の医療施設と緊密な連携がとれています。
多くの患者様は、できる限り自宅で過ごしたいと思っていながら、病状が急に悪化し、つらい症状が出現した場合にどうしたらいいのか不安を感じておられます。そのため当院では、急な病状悪化に対応するべく24時間体制で入院対応を受け入れています。
また、入院した後でも病状により、外出・外泊を行ったり、在宅ケア医と連携をとり、退院して自宅でケアを行うことも可能です。
緩和ケアにおける心のケア
緩和ケアを受ける患者様は、皆さん大きな不安を抱えています。痛みや苦痛を和らげるだけでなく、その不安を取り除き、患者様の心のケアも行うことが、私たちの目指す理想の形です。
例えば、がんの終末期に向かう患者様は、いずれ経験するであろう痛みや苦痛に少なからず恐怖心を持たれています。しかし、現代のがん治療の進展は目覚ましく、適切な投薬によって痛みや苦痛もかなり和らげられるようになっています。
このように、私たち医療従事者が十分な説明さえできれば、患者様の不安の多くは取り除くことができます。
私は緩和ケアこそ、最も医療の質の差が出る分野ではないかと感じています。当院で緩和ケアを受けてよかったと、患者様ご本人はもちろんのこと、ご家族や周りの人からも感じていただけるよう、今後も患者様の心に寄り添う緩和ケアを実践していきたいと考えています。
現場Report
それぞれの専門知識を融合させる
多職種による緩和ケアサポートチーム
佐野病院の緩和ケアの最大の特徴は、多職種のメンバーによるチームでケアを行うことにあります。それぞれのケアの状態を密に情報交換しながら、患者様の状態を多方面から把握し、チーム全体で包括的なケア行っていきます。
多職種で行う緩和ケアのメリット
専門性の高い緩和ケアが可能
医師や看護師だけでなく、薬剤師、理学療法士、作業療法士、管理栄養士などの多職種からなるチームで緩和ケアを行うことにより、それぞれの専門性を生かした質の高いケアが可能となります。また、さまざまな職種の人が直接患者様と関わる機会を持つことで、医師には言えなかった悩みや不安を拾いあげることにつながり、心のケアも含めて多方面からサポートすることができます。
専門知識を活かせるチーム体制と身体だけでなく心のサポートまで意識することで、患者様にとって質の高い最適なケアにつながります。
患者様の体調変化に気づきやすい
一人の患者様に複数人で関わることにより、多方面から患者様の状態を観察することができます。複数の目、また、それぞれの立場から患者様を見ることで、カルテや書類上では分からない小さな変化に、より気づきやすくなります。
特に、がん患者様は日々体調の変化が起こりやすいため、異変を見逃さず、いち早く適切な処置につなぐことができる強みがあります。
リハビリテーション治療の重視
リハビリテーション医療は、これまで脳血管疾患・運動器・呼吸器という区分で実施されてきましたが、数年前から新たに「がんのリハビリテーション」という分野が確立されました。
がんにおけるリハビリテーションとは、治療後に残った障害の軽減、日常生活動作の維持・向上、痛みや苦痛緩和など「がん(症状や病態)」に焦点をあてたものが一般的です。しかし、当院では患者様やそのご家族の価値観や思いを大切にし、がんと向き合いながらも質の高い生活をお送りいただけるよう「その人らしさ」を大切にしたリハビリ支援を展開しています。
患者様それぞれのニーズに柔軟に対応し、それぞれに最適なリハビリを取り入れることで、がんの症状緩和に努めます。
緩和ケアサポートチームの構成
当院の緩和ケアサポートチームは、以下の通りさまざまな職種の15名前後のメンバーから構成されます。
医師
症状緩和のための治療やケアに関するアドバイス
看護師(病棟看護師、外来看護師)
患者様やご家族の苦痛、辛さ、不安などついて、チームの中心となりサポート
薬剤師
患者様の症状や治療計画を薬学的視点からアドバイス
理学療法士・作業療法士
治療による副作用や身体機能の低下、浮腫などの改善・予防のための生活支援
管理栄養士
栄養状態を把握し、病状にあった食事の形態を提案
医療ソーシャルワーカー
経済的な問題、介護保険、社会福祉サービスへの疑問、在宅医療、終活などの相談支援