大腸がんの最新治療法

体に負担が少ない手術と
副作用軽減を目指した抗がん剤治療

食生活の欧米化などにより、私たちにより身近に感じられるようになった大腸がん。今や日本人のがん罹患数で、1番となっています。
大腸がんは早期発見が大切なことは言うまでもありませんが、佐野病院では、手術や抗がん剤治療が必要になった場合も、できるだけ患者様に負担の少ない方法選択するように心がけています。

PROFILE

小髙 雅人(Masahito Kotaka)
消化器がんセンター長

【診療科目】消化器がんセンター 
【専門分野】胃がん及び大腸がんの手術と化学療法、その他消化器がん治療

小髙 雅人

体に優しい腹腔鏡手術が中心

当院で行う大腸がん手術の特徴として、腹腔鏡手術の割合が大変高いことが挙げられます。昨年(2023年)に当院で実施した大腸がん手術は155件。そのうち、8割にあたる127件が、腹腔鏡手術によるものです。
腹腔鏡手術とは腹部の4〜5カ所に、0.5〜1.5cmほどの小さな穴をあけて、カメラや電気メス、鉗子などを入れ、お腹の中をカメラで見ながら行う手術のことです。腹腔鏡で、お腹の中をテレビモニターに映して、がんの場所を確認しながら、がんとその周囲を切除していくわけですが、使用する器具が違うだけで、お腹の中で行われることや切除する部分は、お腹を大きく開けて行う開腹手術と全く同じです。

体に優しい腹腔鏡手術

最新術式と安全性

腹腔鏡手術は、患者様の負担を最小限に抑える優れた面がある一方、制限された狭い範囲で手術を行うため、周囲の臓器など、全体の位置関係は開腹手術よりも把握しにくいといえます。さらに、専用の手術器具を使って間接的に針や糸を操るため、非常に高度な技術と熟練した手技が要求され、術者によって精度に差が出る術式でもあります。 当院は、数多くの腹腔鏡手術の経験から、一般的には開腹手術よりも長くなりがちな腹腔鏡手術も2時間程度と、短時間で行うことができます。精度が高いことはもちろんですが、安全面にも十分に配慮したうえで、患者様の体に優しい腹腔鏡手術を積極的に行っています。

副作用軽減を目指した化学療法

大腸がん治療において、手術と並んで大きな役割を果たすのが、抗がん剤による化学療法です。抗がん剤治療において最も難しいのが、副作用に対するマネジメントです。これは、抗がん剤が進化する一方、副作用も多様化しているためです。
副作用の管理は医師だけではなかなか難しく、看護師や薬剤師が患者様の症状・状態をいかに掴むかが大きなポイントとなります。当院では看護師・薬剤師も含めたチーム医療を大きな目標に掲げ、看護師や薬剤師が患者様の状態を的確に把握し、その報告に合わせ、個別に薬の組み合わせを考えるなど、患者様一人ひとりに合わせた個別化治療が実現しています。
消化器がん治療に関しては、今後も「患者様に負担の少ない高度な手術」と「再発防止を含む抗がん剤による化学療法」の両面をバランスよく強化していくことが大切だと考えています。加えて、積極的な臨床試験などを通して、より安全で有効な治療の開発にも力を注いでいきます。

抗がん剤治療件数(年間)

 

 

技術レポート

大腸がんにおける肛門温存手術について

当院の消化器がんセンター(消化器外科)では、高い技術力と豊富な経験によって、消化器がんに関する最新の手術・治療を行っています。その中から、大腸がん手術の一つの方法である「肛門温存手術」についてご紹介します。

直腸がんと人工肛門

大腸は盲腸にはじまり、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S字結腸を経て直腸、そして肛門へとつながる臓器です。この中で最もがんができやすいのは、直腸とS字結腸です。
中でも直腸がん、特に肛門に近い場所にできる下部直腸がんの治療として、従来は根治性を高めるなどの理由から、永久的な人工肛門をつくる必要がありました。
しかし現在は「肛門括約筋部分温存術による肛門温存手術」によって、肛門を温存できることが多くなってきています。

大腸の構造とがんのできやすい部位

大腸の構造とがんのできやすい部位

肛門温存手術とは

がんを治すための手術は、がん周囲の正常な部分を含めて広く切除するため、従来は、直腸がんが肛門の近くにできると、がんのある直腸とともに肛門・皮膚・筋肉などをすべて切除して、腸管をお腹の表面に直接出して排泄口とする「人工肛門」を作る必要がありました。
これに対して肛門温存手術は、肛門のすぐ近くにできたがんであっても、比較的早い時期のものであれば、肛門括約筋(肛門を締める筋肉)を部分的に切除したうえで腸と肛門を縫合し、肛門から排便する機能を温存する技術です。
ただし、肛門温存手術は、高い技術が要求されると同時に、腫瘍病理学的な根拠も必要で、安易に施行されるべきではありません。私は、この手術に開発段階から携わっており、10年以上の長きにわたり、肛門温存手術の実績を重ねてきました。全国的にみても「肛門温存手術」をこれだけ多数経験している病院は、ごくわずかであり、地域の方だけにとどまらず、遠方からわざわざ来院されるケースも目立ちます。

肛門温存手術の図

肛門温存手術の図

患者さまのQOLを保つために

人工肛門による生活は、外出や旅行など制限されることも多く、患者様のQOLの低下につながりがちです。その点、「肛門温存手術」によって自然排便を温存できれば、QOLの低下をある程度防ぐことができます。
手術後、多少の便の漏れが生じるなどのデメリットもありますが、それでも人工肛門ではなく、肛門温存を望む患者様が圧倒的多数です。
万一、大腸がん手術が必要になった場合は、ぜひ当院にご相談いただき、「肛門温存手術」を含め、幅広い選択肢の中から、患者様にとって最善の治療方法を一緒に考えていければと思います。

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